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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ

青年は読み終えた手筒(てがみ)を凝視したまま、帽子から垂れた紗(しゃ)の向こうに…その表情を隠している。
そして声を発した。
「貴方は……」
「……!」
「貴方たち親子はまるで、魔法使いのようだ…」
「…………、シアン」
目の前のバヤジットだけは見ていたのだ。
穏やかに目尻をさげて、困ったようにも映る複雑な表情で、泣き笑う彼を。
「自由に夢をかかげ、それを託し、そして…こうして叶えてみせた。それはこの広大無辺な砂の地で……もっとも尊い奇跡のひとつだ」
…彼はきっと悲しんでいる。
…今もずっと苦しんでいる。
それでも涙が温かいのは、優しい気持ちを思い出したからだ。
嘘のない喜びが、確かにそこにあるからだ。
「……見てくれ、バヤジット」
「──…」
「花が…咲いた…。オメルは夢を…叶えたんだ」
肩にのった花びらを指ではさんで、彼はそれを空へと見せる。
くしゃりと目を細めた横顔は、バヤジットが心を奪われ…本気で愛し、助けたいともがいた、シアン、──その人であった。
シアンは何処にも消えていない。
散らばる手筒のひとつひとつが…
ここに咲いた小さな奇跡が…
すべて、シアンが生きた証じゃないか。
「…っ…、陛下」
バヤジットが膝をついてその場に屈んだ。

