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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第45章 Epilogue──春待つ砂丘の花々よ
「この花を国中に咲かせましょう…!
シアンが何処にいたとしても、ひとりで孤独であったとしても、…花に囲まれていられるように」
数え切れない傷を負い
健気にいだいた夢のひとつさえ…
追いかけることを許されず
大切な友と、愛した兄を手にかけて
…それでもシアンは、今も死ねずに生きている。
兄を犠牲にして救った国を、そこに生きる民を守るために、玉座で孤独に戦っている。
そんな自分をシアンは愛してやれないだろう。
だからあの日──生き長らえた命を嘆き、生かしたバヤジットを呪い叫んだ。
だからこそ
「シアンを愛する者がいるのだと…思い出せるように、してやりたい」
「──…」
「努努(ゆめゆめ)、忘れてはなりません…!」
足元に跪(ひざまず)くバヤジットが、真っ直ぐシアンを見上げて語る。
「…………愛して、くれるのだろうか」
「──…必ず」
「そうか……」
バヤジットの眼差しを受け止めたシアンは微笑んだまま、それきり言葉を呑み込んだ。
それから、そっと、左手を彼に差し出した。
すぐさまバヤジットが、下から自身の手を添える。
布でくるんだ偽物の手だが、伝わる筈のない身体の熱が二人の間を交差した。
祈るように両手で握る。
もう傷付けられないように、包み込む。
そしてバヤジットが手の甲に口付けを落とした。
この時 彼の鼻をかすめたのは
ほのかに甘い香油の匂いと、その奥の、太陽をあびて焼け付いた…鼻腔から頭までを貫く紫煙にも似た力強い香りだった──。