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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第1章 王弟が散った日

「‥ハァ‥…ハァ……ハァ……ッ」

 冬の、凍てつく夜風が砂を巻き上げる。

 細かな砂塵は行く手を塞ぐように渦を巻き、足を引きずる少年の視界を塞いでいた。

 大ぶりなマントの一枚を頭から被った少年は、とても砂漠超えとは思えぬ軽装である。

「ッ─ぁ‥!」

 そして小さな足を大地に絡め取られ、彼はドサリと地に崩れた。

「ハァ‥‥ハァ‥‥」

 半分が砂、半分が鉄紺色の空

 視界を縦に割る地平線すら霞むほどに、少年の瞳は揺らいでいた。

 そんな、役に立たない視界の代わりに、少年の耳には無数の足音が届いた。


 足音が…迫ってくる…

 少しずつ

 少しずつ近付いている

 追手か

 もう、追いつかれたのか


グルルル....


「……ッ」


 いや違う、この音は──…迫る足音は追手のものではなかった。

グルルルルル...!!

「…ッ…、ぅ…」

 気付けば彼は獣に囲まれていた。

 砂漠に棲む獰猛な肉食獣だ。奴らは群れをなして旅人を襲う。

 動くことすらままならぬ少年を取り囲み、低く唸りながら様子を伺うその獣は、久方ぶりの馳走(ちそう)を前に黄色い眼をギラつかせた。


「待て!!」


 しかし──…少年の手足に獣の牙が突き立てられんとしたその瞬間、砂塵の向こうから何者かの声が届いた。

 そしてヒズメを高々と蹴り立て、ラクダがまっしぐらに此方へ駆けてきた。



「殿下!」

「‥‥?」

 誰だ……

 何故、オオカミ達は逃げていった……?

「ご無事で御座いますか!?」

「お前…は」

 誰も見えない

 だが声は聞こえる

「お前……バヤ…ジット…か」

「…っ…左様で御座います。王弟殿下」

 男はラクダを止め、降りると同時に少年のもとへ駆け寄った。

 そして倒れた少年へと、男が手を伸ばす。

「止まれ…」

「殿下…」

「僕に、触れるな…!!」

 だが、差し伸べられたその手を、少年の手が払った。

 獣に喰われそうになった時でさえ動かせられなかったほど、彼の身体は疲弊しているのに…である。


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