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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第6章 片腕の兵士
朝食を終えれば、訓練が始まる。
練兵所である広場に整列する近衛兵にならってシアンもそこに紛れていた。
さすが──それなりに訓練を受けた彼等らしく、今だけはその粗暴な面を消し去り、私語もなく、きっちり姿勢を正している。
上官が現れるまで、シアンは最後尾から隊の様子を観察していた。
長丈衣(エンターリ)を羽織り、その下に脚衣(シャルワル)を穿く。腰にはクシャックという帯。そして頭には白色のターバンを巻いていた。
昨日シアンに渡され、今彼が身に付けている見習い用の隊服も同じつくりだ。ただ羽織っているのは膝丈衣(ギヨムレク)で、周りの者より丈が短い。
ほどなく時間となり、篳篥(ズルナ)の音が長く鳴った。
それに続き太鼓が二回打ち鳴らされる。
「整列!」
上官の号令があり、片足を上げた隊員達が地面を強く踏む。遅れをとったシアンを目ざとく見つけた上官が、彼のいる最後尾までやって来た。
吊り目がちの強面な男だ。背丈はシアンより少し低いが、がっしりとした体格のせいで凄みがあった。
「貴様は新入りだな。シアンと申す者か」
「はい」
「貴様についてはスレマン・バシュより聞いている。──…久方ぶりのクルバンだとな」
その上官の言葉は周りの多くの人間に聞き取れた。
“ クルバン? ”
“ こいつクルバンか。へぇ… ”
当然、周囲に動揺が走る。
シアンに向けられるのは驚きの目と好奇の目、そして蔑みの目──。
そんな中、冷徹な目でシアンを睨みつけてくるのが目の前の上官だった。