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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第6章 片腕の兵士
「私は槍兵師団の副官だ。貴様の推薦先は騎兵師団であるが、この数日は私が貴様の上官となる」
「つまり僕が槍兵師団に?」
「不満だと申すか?」
「いえ、ただ」
「ネズミふぜいが口答えとは生意気なものだ!」
「……」
口を開くだけで途端にこの激昂だ。
これにはシアンも困惑を隠せず、言葉に詰まる。「落ち着け」なんて声をかけようものなら鋭い吊り目が血走りそうだ。
「何を黙っておる。卑しいネズミは返事のひとつもできぬか」
「…副官殿。お怒りを承知で申し上げますが、僕に槍は扱えません」
「何だと?」
「僕の貧弱な片腕では、槍のような長物を扱うことなど到底──できそうになく。戦闘に不向きと思われます」
「…ふっ、何を言い出すかと思えば " 戦闘には向かない "?──当然だろう。はなから貴様にそのような期待はしていない」
副官はシアンの胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「思いあがるな。貴様はせいぜい馬舎から拾ってきた藁(わら)でも掴んで振り回しておけば良い。それが似合いだ」
鼻が付くほどの近距離でまくしたてられると鼓膜が痛いが、顔をしかめる事さえ許されそうに無い。
「──どうせその左腕も盗みを犯した罰で斬り落とされたのだろう。卑しい手に持たせてやる武器は無いのでな」
「……」
男のこれは敵意とは違う。
深い意味など無い。賤人であるシアンが蔑みを向けられる時、たいてい…そこに理由は無い。
突き飛ばすように解放されたシアンが数歩後ずさった。
「…──ん?」
「……」
「き…っ さま、その刀……!」
「…………ああ、失礼」
副官が再度シアンを睨み付けた時、見覚えのある物が彼の手におさまっているのを目視する。
そして慌てて自身の腰を見た。腰に巻かれたクシャックに──いつも挟んでいる刀が無い。
「私の刀を──ッ」
「……なにぶん手癖が悪う御座いまして」
シアンは、誰にも気付かれず奪ったクルチ(三日月刀)を、軽く放って持ち直す。
冷めた表情を全く変えず、それを男に差し出した。