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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第6章 片腕の兵士
「ウルヒよ、これはあくまで試験だ。
──なるべく殺すでないぞ」
「なるべく…ねぇー、なるべく……へへ」
このウルヒという男は、男女問わず、美しい者が苦しむ姿に興奮する……。下劣(げれつ)な趣味で有名なクオーレ地区の問題児。
「さっさと立ちな小僧」
「…っ…ええ」
槍を両手で構えたウルヒに促され、シアンがふらりと立ち上がる。
副官の腰から奪ったクルチを片手に持ち
そして刀身から──鞘を落とした。
「始めろ!」
すぐに副官のかけ声がとどろき、ヤツの狂犬が牙を剥く。
突き出された矛先が躊躇い(ためらい)なくシアンを捉え──
「──ッ」
後ろへ距離をとったシアンの刀が、間一髪で横に弾いた。
───キンッ!
「あ?」
腹をえぐるつもりが予想外にかわされ、男が声をあげる。
シアンは肩より下で刀身を天に突き立てる。
そして左足を引くと同時にそちらへ体重を預けた。身体の向きが90°回転し、ちょうど相手に対して平行になる。
「なんだぁその構えは!」
「──…」
ウルヒがいったん槍を引き寄せ、刺突という技で攻撃した。
迫る穂先──シアンは素早くそれをかわし、避けきれない穂先の軌道を、立てた刀身で僅かにそらす。
“ あの構えは……まさかな ”
シアンの動きを観察する副官は、彼の動きに違和感を覚えながら胸の前で腕を組んだ。
“ 恐らくは左腕を庇っているつもりだろうが… ”
キン──!
「こっのお~!イライラする奴だなぁ!」
届かない攻撃を何度も繰り返して、苛ついたウルヒが唸っている。
しかし副官の男はシアンの策が万能で無い事に気付いていた。今のシアンは防戦一方だ。
「逃げてばっかないでかかってこいよっ」
「…っ」
「臆病もんが!」
攻撃を防ぐたびに徐々にシアンの右手は痺れていった。
「オラァ!」
「ぅ……!!」
そして、力強い突きについに反応が遅れ、防御した刀身を横に弾かれた。