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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第6章 片腕の兵士
槍の軌道を十分に変えられず、右の二の腕に襲い来る。
肌をかすめた穂先が彼の上衣を引き千切ると…
破れた膝丈衣(ギヨムレク)から、傷を追った細い腕が露出する。
「へへ…いいぞいいぞぉ」
「……!」
「このままぜんぶひん剥いてやる。お前の肉をエグりながらなぁ」
傷は深くなかったが、彼の白い衣や白皙(はくせき)の肌に、赤色がじわりと浮かびあがった。
それはウルヒと、見物人の男達の興奮を煽る。
「クルバン!行け!やれ!」
「逃げるな戦え!」
それらは一聴すればシアンへの歓声に思えても、彼の勝利を願ってではない。
彼が負傷しようが、死のうが…この戦いは単なる余興。派手であればあるほど良い…
「───……」
……それだけだ。
「……、フゥ……」
シアンは自らの傷口を見て、離れた所に仁王立つ副官を見て、そして目の前の狂犬へと順に目を通した後──
ゆっくりと右の足を後ろへ引き、先程までと構えを変えた。
相手に対して身体を平行に向けるのは変わらない。
ただ、前に出したのが刀を持つ右手でなく何も持たない左手というのが、それまでとは逆だった。
右手はと言うと、顎(あご)の横まで高く上げ、刀の切っ先でウルヒを差す。
その立ち姿は、さながら弓の弦を固く引き伸ばし──獲物を捉える狩人(かりうど)だった。