この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第7章 餌はしたたかに振る舞う
当時の王都には多くの賤人がいた。墓守や処刑人、呪術師、そして踊り子や娼婦──。しかし太陽神の教えに背く彼等の行為は、今も昔も仕事だと認められていない。
キサラジャいちと評判だった踊り子の美女も、刑の執行人として国民に恐れられてきた首斬り人も、等しく街を追放されたのだ。
娼館の消えた夜の街では、貴族達の不満が高まっていった。
「そこでひとりの貴族が、街の外で見付けた美しい男娼を兵士として宿舎に送り込んだのが《クルバン》の始まりだった。都合のいい生贄さ…。それ以来、" どれだけ良い生贄を連れてくるか " で貴族達が競い始めて、近衛兵宿舎が実質の男娼宿となった歴史がある」
「………………」
「今は慣習として残っているくらいでかつてのそれほどでは無いが──…」
話途中のシアンがちらりと視線を落とすと、いつの間にかオメルがこちらを見上げていた。シアンは思わず顔をそらした。
「…っ…まぁ、その…昔の話さ」
オメルは丸々とした目で不思議そうにシアンを見つめている。
話し過ぎたと自覚するシアンには、その真っ直ぐな視線が痛い。
「シアン って……!?」
「……」
「…………シアンってすごく物知りだな!」
「え、あー、うん?…そう…!?」
「なに言ってるかほとんどわからんかったけどな!」
「ああー……。そ うかもしれないね…」
オメルは感心しきった様子で大きく声をあげた。
甲高いその声にどん、と横から殴られた……と言うより抱きつかれたみたいにシアンが頭を傾ける。
何故シアンが国の歴史を知っているのかとか、そんな事はどうでもいいようだ。
クルバンとは何か、近衛隊へ入ればどんな扱いを受けるのか……全て承知の上でやって来たというシアンを、訝(いぶか)しむ気も無いらしい。
「…君は誰かに似ている気がするよ」
「誰かって誰だ?」
「もう何処にもいない奴だ」
シアンがそんな事を呟く。
そして自分の荷物を引き寄せて中から包みを取り出すと、見守るオメルの前でその包みの結び目を解いた。