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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第7章 餌はしたたかに振る舞う
包みの中から、芳ばしい匂いが薫った。
あ!と声をあげたオメルの前で広げたそこには、大量のピタ(薄焼きのパン)と薄切り肉が入っていた。
「取ってきたんだ」
「でも食堂にはあいつらがいるんじゃないのか?邪魔されなかったか?」
シアンの横に手をついたまま、足をぴょんぴょん跳ねさせて喜ぶオメル。
「……そうだね、だから正確には 盗って きた。せっかくだから食べなよ」
「いいのか?いいのか?」
「勿論」
「ありがとう!うわぁー…」
オメルがそおっとピタに手を伸ばして、かと思えば掴んだそれに勢いよくかぶりつく。
そもそもピタにはそれ自体に味がついておらず、固く乾いているから、スープや葡萄酒に浸して食べる物。
……の筈なのだが、オメルはがっついている。
「……君は街に出掛けたことがないのかい?バールで食事をしたりは?」
「ないよ。街はここより怖いから俺が買い物したら八つ裂きにされるってあいつら言ってた」
「なるほど」
シアンはやれやれと溜め息を付いて、膝に置いたピタの上に、器ごと盗ってきたクリームをたっぷりと乗せた。
カイマックという羊の乳のクリームだ。
さらに塩漬けにされた薄切り肉を乗せて、それをオメルに差し出した。
「こうやって食べるの」
「………ゴックン」
焦って頬張るオメルを諌めるように、ゆっくりとした所作で手渡した。
で、オメルが受け取ろうとしたのだけれど……シアンは何故か、離さない。
「……?」
「これ、あと少し我慢すれば……クリームがピタに染み込んでもっと美味しくなるのだけれど」
「………え」
その言葉に、オメルが期待いっぱいの顔で口元を弛める。
だがその " あと少し " が我慢できないらしく、うるうるとした目でピタを凝視していた。