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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第7章 餌はしたたかに振る舞う


....ゴボッ


「……んっ」

「…っ…へ…へへ」

 合わせた口から流し込まれた葡萄酒が、シアンの喉を通り抜ける。

 勿論それだけで終わらない。

 男はシアンの舌を捕まえて絡ませた。売春宿でよくあるお遊びだ。

「どうだ美味かったか?ん?」

「ん……はぁ…」

「もうスイッチが入ったか?その顔いいじゃねぇか…!」

「……はぁ、はぁ、クク」

 シアンは中途半端に空いた唇から悩ましく吐息を漏らし、薄く笑みを浮かべる。

 垂れた酒をペロリと舐めると

 一段と大きく溜め息をついた。


「──…不味い…ですね」


「…ッ…!? は?ああ!?」

「とても不味いです。残念、ながら」

「俺の酒は不味くて飲めないと言いたいのかよ!?」

「いえそれ以前の問題と言いますか…。この葡萄酒、酸化が進んだ粗悪品ではないかと」

「っ…そ あく…!? ああ?」

 シアンの表情は、周りの近衛兵への嘲笑だ。

 確かに、完璧な密閉方が確立されていない今の保存状態では、月日とともに酒の味は落ちる。出来たてを味わえるのはごく限られた人間だけ。

「入隊試験で命拾いしたからって調子にのるなよ?下等な平民が」

「平民じゃねぇ。そいつらクルバンはそれ以下だ。生きようが死のうが殺されようが、文句言えねぇんだからよ」

「そんなお前に酒の味がわかるのか?あ?」

 顔を近付けシアンを威嚇する。

「シアン!」

 食堂の入り口で心配するオメルが叫んだ。

「慌てないで、オメル」

「え、でもっ…?」

「皆さんも、癪に障る言い方を──どうかお許しください。このような粗悪品は貴方方に相応しくない。…そうでしょう?」

 メンツをつぶされ怒る輩を相手に、落ち着いた口調でシアンが諭した。

「僕がこの酒の味を……変えられるとしたら?」

「なんだと?お前が?」

「試すだけでもしてみませんか?」

「…!」

 何を言い出すのかと思えば……。

 周りの兵士は唖然としている。

 シアンの身体を掴んだその手も、固まらせていた。


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