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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第7章 餌はしたたかに振る舞う
シアンはそれ等の手をひとつづつ外して、オメルに声をかけた。
「来て。手伝ってくれるかい?」
「…っ…お、おう!」
彼は新たな酒器を手に厨房側に入ると、石窯の下を覗く。
「オメル、悪いけど僕の代わりに火をおこしてほしい」
「火?いいけど、なんで?」
「酒を美味しくするんだよ。片手だと上手くできないから、頼むよ」
小ぶりな鍋をひとつ持ち出し、その中に葡萄酒を注いだ。
オメルは言われたとおり道具を使って火をおこす。慣れた手つきだ。
パチンパチンと炭の周りで火花が弾け、竈(かまど)の中が熱くなると、シアンはその上に先ほどの鍋を置いた。
火にかけられた酒は、しだいにグツグツと煮立ってくる。
「シアンこれ何?あいつら熱湯のむのか?」
「いやそういうわけじゃなく…」
「火傷するの好きなのか?」
「…」
見物人が鍋の前に集まる中、注目の的にされているオメルは相変わらずシアンの背後から離れない。
料理なら、酒に何かしらを混ぜるのだろうか。何人もの酔った赤い目が次の一手を待っているようだ。
「…そろそろか」
だがその一手がないまま、シアンは火を消してしまった。
「できました」
「?」
「酒器を渡してください。それと瓶(かめ)から水を──そうですね、ひと掬い入れれば丁度よい温度で飲めるかと」
「馬鹿にしてんのか!これで終わり!? 冗談だろ」
火にかけただけで終わったところで、納得できない彼等が憤慨するのは当たり前──。
今度こそ無事ではすまない。
“ ひええええ!嘘だろシアン!? ”
「温めただけで美味くなるわけないだろうが!」
“ うんうんそうだよなっ。そうだよな!? ”
「その煮立った酒をおキレイな顔にぶっかけてほしいのかよ?」
“ にっ逃げなきゃ…!! 逃げなきゃ不味いぞシアンー!! ”
落ち着いているのはシアンだけだ。