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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第8章 復讐者の記録──壱

 次に目覚めた時、少年はラクダの背ではなく、藁(わら)ばかりが敷かれた小さな建物の中にいた。

 ゴミ捨て場のようだと思った。

 街外れで倒れていた彼を見付けてそこへ運ばせ介抱させたのは、その街で宿屋を営む女亭主。


 女亭主は少年に問うた。──名前はなんだ。


 ……答えられない


 ──何故倒れていた?


 ……答えられない


 ──何処から来た?


 ……答えられない


 ──何処へ向かうつもりだった?


 ……わからない


 全ての質問に少年が答えられず、呆れ顔の女亭主は最後にこう問いかける。




 ──あんたは生きたいのか、死にたいのか



 …………




 それにも少年は答えない。

 生きたいとは思えない。ならば自分は死にたいのか?──まさか、彼は生きてゆく事を許されなかっただけで、自ら命を絶とうとした訳ではない。

 生きるのに疲れただけだ。

 死ぬ事ができなかっただけだ。

 どちらにも転べず宙ぶらりんの状態で、" まだ " 生きてるだけの死人なのだ。


『 僕は死人だ──…』


 それは問いの答えとは言い難い、しかし他のどのような言葉よりも的を得た返答だった。



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