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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第1章 王弟が散った日
「ねぇ‥‥バヤジット」
「──?」
「兄さまは‥ッ‥‥どおして
僕 を 殺そうとするのかな」
悲しみが、叫んでいた
「僕はどうすれば‥ッ
兄さまに愛してもらえたの‥‥!?」
首をめがけ、刀を振り下ろさんとしたその瞬間
男が見たのは…深い悲しみに打ちのめされ、泣きじゃくるただの幼子だった。
とても無防備で…威厳を忘れた、幼く弱い子供の泣き顔。
「にぃ さ ま‥」
「──…!?」
強い動揺が男を襲う。
男は、両目を固く閉じた。
そして、獣の咆哮に似た大声とともに、渾身の力で刀を最後まで振り下ろした。
「おおおおおお!!!」
ザクリと、砂に刀身が埋まる
同時に散った赤い血が、白い砂塵を濡らした
....
「──……はぁ…はぁ…!
はぁ……ッッ───く………!!」
「‥ァ‥!?」
刀を振り下ろした男は血痕の付いた刀身を翻(ひるがえ)し、それを足元の砂へ突き立てた。
「王弟殿下は……!
今日(こんにち)、陽の国へと旅立たれた…」
捨てるように、荒々しく突き立てた。
「殿下は此処で狼共の餌食となられた。御身は無残にも喰い尽くされ、唯一、持ち帰る事ができたのは」
そして男は少年の隣へ……片膝を付け、跪く。
力なく投げ出された少年の華奢な手に、自らの手を重ねて置いた。
「持ち帰るコトができ たのは──…
左の御指に宿りし此の刻印(こくいん)のみ…」
「──…」
重ねた男の手の隙間で…
新たな血が滲み出た。
細い指の断面
骨まで見える生々しい切り口──
そこからコロリと、剥がれ落ちた数本の指 ──
それをすくい取った男の掌から、ちょうどネズミの心臓のひとつほどを握り潰したぐらいの、そんな度合いの量の血が…ポタリとひとつ滴り落ちた。
その指には王族の証となる刻印がある。
痛みに呻いた少年の身体を抱えてラクダの背に寝かせると、革の羽織りを脱ぎ去り、それを少年に被せて鞍(くら)と固定した。
「ハァッ‥ッ‥ハァッ‥ ‥ナニ を‥!?」
「二度とお戻りくださるな」
そしてラクダの腹を平手打つ。
少年を乗せたラクダは一度大きく いななき、王都に背を向けて走り去った──。