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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第9章 蜜にたかる蛆
その部屋は神殿と似た構成で、列柱の代わりにオイルランプの並ぶ身廊が、奥の内陣まで長く続く。
身廊の突き当たりにはビロードの絨毯が敷かれた座椅子があり、支柱から垂れた金模様の天蓋(てんがい)に人影が隠れている。
「陛下、お加減は如何でしょうか。ここ数日……寝所から一歩もお出になっていないとか?」
「───……」
天蓋の前でタランは跪いた。
「………その書状は何だ」
すると暫くの後、気怠げな声が届く。
小さく、掠れ、張りがない──
覇気はなく、それでも対手を牽制するおごそかな雰囲気は、そこにいるのがこの国で最も高位な男であると示していた。
「民からの嘆願書です。昨今の事態に混乱し、騒ぎ立てているのでしょう…。ご覧になりますか?」
「…………いや、お前が見ておけ」
「…承知致しました」
端然とした面で相手を見上げ、タランはにこりと微笑む。わざわざ聞かなくとも、この王が政務に関わろうとした事は一度もない。
…その方が都合がいい。
であるからタランはこうして、時おり王宮を訪ねては王の機嫌を伺っているのだ。
「政務は私にお任せください。帝国との問題も全てよきに取り計らいますので、ご安心を」
「……ああ」
「して、最近の陛下は食事もあまり召し上がらないと聞きましたが、…何か不安の種でも?」
「……」
「食事がお口に合わないようでしたら料理人を変えましょうか」
ペラペラと軽快に話すタランに、掠れた声で時おり返事が返される。
天蓋に映るシルエットから察するに、相手はこちらを見てもいないようだ。
そのシルエットはゆっくりと水パイプを口許に運び、煙を吐き出しながらぼそりと呟いた。
「──…夢を、見る」
「……夢?」