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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第9章 蜜にたかる蛆


──…


「騎兵師団の将官がジゼルに戻ってくる?」

「うん、そうらしい。さっき廊下であいつらが話してるの聞いたー」

 練兵所の脇にある武具の保管庫。

 シアンとオメルは上官の命令に従い、砂で汚れた武具の手入れをおこなっていた。

 だが途方もない量を前にそのうち飽きがきたので、今朝シアンが食堂で盗んだ果実をかじりながら、日影で休憩をとっている。

「確か、帝国との国境で隊の指揮をとっているんだろう?」

「そうそう、そこで、帝国と近衛隊でにらめっこしてるらしいけど、なぜか将官だけ帰ってくるんだ」

「そうか……」

 薄赤色の実に果皮ごと歯を立て、少量を口に含んだシアンが眉をひそめる。

「反応暗いな。シアンもそいつが嫌い?だってやっぱり《 指切り将軍 》だもんな。ちょっと怖いよな」

「…指切り将軍って何のこと?」

「あっシアンは知らないのか。騎兵師団のバシュはさ、昔からそう呼ばれてるらしいんだ。面と向かって呼んでるかは知らねぇけど…──っ、わ、ニガイ……」

 会話中も果実にかじりつくオメルは、中の種を噛んでその苦さに顔をしかめた。

「…ッ…俺は隊が違うから会ったことないけどすっげー気難しくてコワイ奴なんだって」

「へぇー……」

 心境の読み難い声で、シアンが相づちを打つ。

「でもよかったじゃん。そいつが戻ってきたら、シアンも別の仕事もらえるかもしれないんだろ?」

「そうだね。そうだといいな」

「オレはゴメンだけど……シアンは変わってるなぁ」

 騎兵師団のバシュが不在の間、シアンの所属は槍兵師団となっている。

 だが初日の入隊試験以降、シアンは訓練の参加も認められていない。このままダラダラ過ごしていても、王宮周辺へ近付けない。

 以前オメルに、どうすれば王宮警備兵になれるのかを聞いた時は、とんでもないと大慌てで止められた。



『 なに考えてるんだよシアン!あのあたりは国王さまや公爵さまが住んでてっ…それに、水の社もあるだろ?近付いちゃいけない 』

『だが仮にも僕らは近衛隊の一員だ。まったく可能性がない訳ではないだろう?』

『でもオレたちは貴族じゃない…。王宮の警備をまかされるのはメイヨなことってみんな話してる。信頼できるやつだけを、バシュが直接選ぶらしいんだ』



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