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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第9章 蜜にたかる蛆

 貴族社会は面子(めんつ)が全てだ。君主の警備に身分の低い者を抜擢したとなれば、将官の面子に傷が付く。

 貴族の中でも身分の差はある。まして、貴族どころか平民ですらないクルバンに役職を与えたとあっては──。

「……ハァ」

 さて、どこから潜るべきか。



「おいオメルどこ行ってんだ!時間だ!水を運んでこい!」

「…っ…げ、あいつらが呼んでる」

 シアンが思索にふけていると、保管庫の裏からオメルの名を叫ぶ声があった。

「ほんと、ひと使い荒いんだよなあ…ったく。まぁシアンが来る前よりマシになったけど?ちょっと行ってくるね」

「僕も行こうか?」

「いいよオレしか呼ばれてないし」

 残った丸い実を口に放り込んでオメルは走って行った。


 …あんなに口の中をパンパンにして彼等の前に出たら、十中八九咎められると思うが大丈夫だろうか。


「おいちょっと待てオメルてめぇ何を食ってる!? 俺達が訓練してる間につまみ食いか!?」

「ふがッッ…もごっ、ごっごめんなさいーー!水運んできまーーす!」

 ……シアンの予想は当たったらしい。

 これはオメルの落ち度なので助けるつもりはないが、せめて無事を祈るくらいはしておいた。


「…ッ…僕も少し、食べ過ぎたか」

 そんなシアンも今日はオメルのペースに呑まれて、いつもより多めに朝食を取ってしまった。

 胃の中に居座る重力がたとえ僅かであろうと不快に感じる。

 …仕方ない。

「…‥ン‥ッ──フ、グ‥…」

ゴボッ

「ン─ッッ‥‥……ゲホッ ゲホッ!‥く、ぅ…」

 彼は建物の陰に頭を垂れ、その長い指を自らの喉へ押し込んだ。

 喉奥を強く掻きむしる。ちょっとの刺激では慣れてしまっているから、これくらいしなければ むせることができない。


 そして彼は少量の胃液とともに、ナカの異物を地面に吐き出した。



「──…ふん、なんだ」


「ゲホっ、‥…!? ハァっ…‥ハァっ‥‥!!」


「貴様は豚の餌でも食べるのか?やはり穢わらしいことこの上ないな」


「……!?」


 すると、地面にうつ伏せるシアンの背後にあの男が立っていた。



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