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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第9章 蜜にたかる蛆

 初めてシアンを見た時のように軽蔑の眼差しを向け、──それでも口許は愉悦をこめて笑っている。

 シアンは面(おもて)は上げずにカフタンの裾(すそ)だけを見て、口を開いた。

「これ は……スレマン・バシュ。お見苦しいトコロをお見せして申し訳ありません」

「まったくだ」

「入隊を許可して頂いたとき以来ですね。お久しぶりです。…ご要件は?」

 高官の衣服を身に付けてシアンを見下ろしているのは、槍兵師団のスレマン・バシュ。

 シアンの推薦状を受け取り、入隊を認めた将官だ。

「暇ができたので貴様の様子を見に来ただけだ」

「…僕を " 見に " わざわざ?」

「そうだ。聞けば貴様…入隊試験とやらで私の部下を負かしたらしいな。その細腕で剣技の才もあるとは驚いた」

「相手が短絡的だったのが勝因かと」

「ふ、ははは!面白い小僧だ。さらにその夜から、部下共に上等な酒を振舞っているとも聞いたが?」

「上等な酒なんて僕に用意できません。ただ彼等が粗悪な酒を流し込んで満足していたようなので、多少、味を整えて目を覚まさせただけです」

「……ふん、相変わらず生意気だな」

「ですが、お好きでしょう?」

「…っ…ああそうだな。私に気に入られる術(すべ)を心得ておる」


·······


「今からその酒を、私の部屋まで運ぶがいい」

「──…」

「穢れた身体は清めて来い。……わかったか」


 スレマンの命令を聞いて、一瞬の刻、シアンの呼吸が止まった。

 それまで咳き込んでいた口を引き結ぶ。

 薄汚い男に邪(よこしま)な劣情を向けられれば、ますます気分が悪くなると言うものだ。


········ニコリ


 しかしその劣情に──利用する価値があるならば

 それは彼にとって……途端に甘美な蜜へと変わる。


「……喜んでお持ちしましょう。スレマン様」


 シアンは面を上げると、極上の色香を漂わせて微笑んだ。





──…



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