この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第9章 蜜にたかる蛆
初めてシアンを見た時のように軽蔑の眼差しを向け、──それでも口許は愉悦をこめて笑っている。
シアンは面(おもて)は上げずにカフタンの裾(すそ)だけを見て、口を開いた。
「これ は……スレマン・バシュ。お見苦しいトコロをお見せして申し訳ありません」
「まったくだ」
「入隊を許可して頂いたとき以来ですね。お久しぶりです。…ご要件は?」
高官の衣服を身に付けてシアンを見下ろしているのは、槍兵師団のスレマン・バシュ。
シアンの推薦状を受け取り、入隊を認めた将官だ。
「暇ができたので貴様の様子を見に来ただけだ」
「…僕を " 見に " わざわざ?」
「そうだ。聞けば貴様…入隊試験とやらで私の部下を負かしたらしいな。その細腕で剣技の才もあるとは驚いた」
「相手が短絡的だったのが勝因かと」
「ふ、ははは!面白い小僧だ。さらにその夜から、部下共に上等な酒を振舞っているとも聞いたが?」
「上等な酒なんて僕に用意できません。ただ彼等が粗悪な酒を流し込んで満足していたようなので、多少、味を整えて目を覚まさせただけです」
「……ふん、相変わらず生意気だな」
「ですが、お好きでしょう?」
「…っ…ああそうだな。私に気に入られる術(すべ)を心得ておる」
·······
「今からその酒を、私の部屋まで運ぶがいい」
「──…」
「穢れた身体は清めて来い。……わかったか」
スレマンの命令を聞いて、一瞬の刻、シアンの呼吸が止まった。
それまで咳き込んでいた口を引き結ぶ。
薄汚い男に邪(よこしま)な劣情を向けられれば、ますます気分が悪くなると言うものだ。
········ニコリ
しかしその劣情に──利用する価値があるならば
それは彼にとって……途端に甘美な蜜へと変わる。
「……喜んでお持ちしましょう。スレマン様」
シアンは面を上げると、極上の色香を漂わせて微笑んだ。
──…