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飴玉ひとつぶん
第1章 退屈しのぎ
「みーんなキヨみたいにピュアだったらいいのに。よくさ、芸能人と一般女性のスキャンダルが報道されるだろ? あれ、きっと男を愛してるわけじゃない。芸能人と付き合ってる自分が好きなだけ。
 付き合ってるうちは、友達とかに自慢しまくる。けど、飽きたらマスコミに売って、金にする。俺はそれの下位互換ってわけ。
 話題になるから付き合うけど、飽きたら別れて、話の種にするだけ」
「皆が皆、そうとは限らないだろ……」
 恋愛に幻滅したくない防衛本能で、キヨはすがるように口にする。レイはそれを見透かしたように、薄っぺらい笑みを浮かべる。

「もちろん、本気で恋愛してる女の子だっている。というか、そっちが多数派だと思う。けど、俺に近づく女の子は、そうじゃない。今日声かけてきた子、キヨは知ってる?」
 問いかけられて彼女の顔を思い出すが、何度か大学で見かけたことがある気がする程度で、やはり、顔も名前も思い出せなかった。
「……いや、同じ大学だってことくらいしか」
「言うまでもないだろうけど、俺もだよ。そんな子から言い寄られるの、いい加減めんどくさくてさ。けど、俺って優しいじゃん?」
「自分で言うなよ」
 呆れ気味に言うと、レイは確かにと、困ったように笑う。思えば、彼が女性といて笑顔になっているのを、最近は見ない気がする。

「冷たくあしらったり、突き放したりはできなくてさ。だから、飴玉ひとつぶんの時間を過ごして、バイバイするって決めてるんだ。飴玉が溶け切らないうちは、その子の恋人。溶けたら他人に戻る。それが1番楽なんだよね」
 レイは上着のポケットに触れながら、つまらなそうに笑う。

「それで甘党でもないクセに、いつも飴を持ち歩いてたのか」
「そーいうこと。軽蔑した?」
「いや、別に。それがお前の防衛手段なんだろ? じゃ、いいんじゃないか? ……好きでもないヤツとキスするのは、どうかと思うけど」
 レイは一瞬目を見開き、ふにゃりと笑う。気を許した相手にしか見せない、本心の笑み。レイがまだ心で笑えることに、キヨは密かに安堵する。
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