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人妻愛人契約
第6章 移りゆく季節の中で~冬、クリスマスベビー
「希実さん? 聞こえてる?」

「う、うん、聞こえてるよ……」

「今日の旅行代理店の役員さんとの会食だけど、どんな話が出たの?」

「それね……。帰ったらゆっくり話すわ……」

「少しくらい教えてくれたっていいじゃないか。どうせ、あとは寝るだけなんだろう?」

「それはそうだけど…………」

「もったいぶらないでよ」

「……………………」

「ほら、希実さん」

「も、もったいぶってなんかないわ。別に今日は大したこと話したわけじゃないから……」

「そうか。でも少しは映画の話なんかも出たんでしょう。配役はどうなりそうか言ってなかった?」

「……配役ねえ……うん……まだ決まってないって言ってたかな……」

「そうなんだ。だったら、僕は、フィーゴはマイケル・ハンクスがいいと思うな。ステラはジュリア・ワトソンかな。リナは……。希実さん? 聞いてる?」

「……………………」

「希実さん?」

「う、うん。聞いてるよ……」

「ホントに? さっきから少し様子が変だよ」

「けっこうお酒飲んだから酔っぱらっちゃったみたい……うッ……」

「珍しいね。希実さんは、お酒強くないから気をつけないと。そういう僕は全然飲めないけど」

「……………………」

「希実さん?」

「ご、ごめん、祐樹……ん……本当にダメ……頭がクラクラする……んーッ……ほ、本当にダメだってばっ……お願いっ……」

「じゃあ、やっぱり話は帰ってきてから聞くとするか」

「う、うん……そうして……くっ……れるぅっ」

「わかった。じゃあ、切るね」

「……………………」

「希実さん、気をつけてね。愛してるよ」

「……わたしも……祐樹のこと……愛してるよ……」

「じゃあね、おやすみ」

「……おやすみ……祐樹」

ツーツーツー……。電話が切れた。

希実があんなふうに酔っぱらったことはない。祐樹の心の中に、何とも言えないモヤモヤした不安が広がっていった。昼間見た善一のにやけた顔が浮かんでくる。

ダメだ、ダメだ、ダメだ。祐樹は頭を振って、それを追い払った。希実は、きっと疲れてるんだ。あんなに働いているんだから――。必死に自分にそう言い聞かせた。

「ママ、少し休ませてあげないとな」

祐樹は、寝ている愛未に向かって呟くと、隣の布団にゴロリと横になった。
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