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第1章 10億の借金

「わたしね、高校生のとき、あいつに襲われたことがあるのよ」

「え、ほんと！」

祐樹は、飛び起きて希実の顔を見た。

「うん。襲われたって言っても、後ろから抱きつかれただけだけどね。お父さんが理事長をしてたから、その生意気な娘をちょっとからかってやろうと思ったんだと思う。わたしが大声を上げたら、サッと手を離して逃げて行ったわ。

でもね、あの時、首筋に吹きかけられた、あいつの生温い息の気持ち悪さが、今も忘れられないの。ああ、こうして話してるだけで鳥肌が立ってくるわ」

希実は、自分の胸を抱きしめるように腕を組むと、両方の二の腕を摩った。

「そうか。そんなことがあったんじゃあ、嫌がるのも無理ないな」

「でしょう」祐樹が理解を示したことに、希実は満足げに頷いた。「でも、慎さんの言うこともわかる。他に手がないのも確かだし、一度相談してみようか」

「無理しなくてもいいよ」

「そうですよ、女将。また襲われでもしたら大変だ」

希実は心配してくれている二人の顔を嬉しそうに見ながら、

「大丈夫よ。わたしももう大人だし。それにいくら女好きだって、人の奥さんをいきなり襲ったりしないでしょ」

明るい茶色の目を細め、ニッコリと微笑んだ。