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人妻愛人契約
第13章 奪還
10時を過ぎて会合は終わった。羽鳥たちと別れると、二人はタクシーを拾って宿泊先のホテルへと向かった。

祐樹の実家に泊まってもよかったのだか、会議の結果次第では夜に作業をしなければならなくなるかも知れない。そう考えて今回は気を使わないで作業ができるホテルに部屋を予約しておいたのだ。

「祐樹、どうかしたの? さっき変な顔してたけど」

タクシーに乗ると、心配そうな表情で希実が聞いてきた。

「そうだった? 何でもないよ。ちょっと疲れただけさ」

そう言って祐樹は微笑んだ。希実に余計な心配をかけたくなかった。

「だったらいいけど……」

希実は納得した様子ではなかったが、それ以上は聞いてこなかった。

「羽鳥さん、希実さんと会えて喜んでたね。顔が嬉しそうだった」

祐樹はわざと明るい声を出して話題を変えた。

「そんなことないよ。祐樹と仕事ができるのが嬉しかったんだよ」

「だったらいいけど。でも、本当にすごく緊張した。あんなふうに羽鳥さんと正面で向かい合って話すなんて僕は初めてだったから。最初に握手したときだってそうさ。緊張して足が震えてた」

「そうだったんだ。全然気づかなかった。でも、立派だったよ。羽鳥さんと堂々と握手するなんて。かっこよかった」

「惚れ直しちゃった?」

「うん。惚れ直しちゃった」

希実が甘えるように頭をちょこんと祐樹の肩にもたせかけてきた。祐樹は腕を希実の肩にまわして抱き寄せた。

「僕も希実さんに惚れ直しちゃった」

「本当に?」

「本当さ。会議で意見を言ってる希実さん、活き活きしてたし、すごくカッコよかった」

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」

希実が顔を上げて祐樹を見つめてきた。透き通るような明るい茶色の瞳が、すれ違う車のヘッドライトに照らされてキラキラと輝いている。

きれいだった。

祐樹は希実の唇にキスしたくなったが、すぐ目の前に運転手がいる。バックミラーでこっちを見ている気がしてしかたがない。この場は、ぐっと堪えた。

「一緒に新しい会社、成功させようね」

「うん」

祐樹は欲望を抑えるために目を希実の顔から反らした。代わりに肩を抱いている腕に力を込めた。希実も手を祐樹の太腿に置いて応えてくれる。

そのまま腕に希実の温もりを感じながら、窓の外を流れていく東京の夜景を見ていた。
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