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第1章 10億の借金

「湯めぐりですか？」

「はい、3軒目を目指してます」ピンク色の浴衣を着た子が、肩から下げたトートバックを引っ張り、表を祐樹に見せた。

この温泉街では、トートバックが湯めぐりの手形になっている。そこには『ホテル＆スパSANGA』と書いてあった。

「サンガさんですか。いいホテルにお泊りですね」

「自分たちへのご褒美旅行なので奮発しました」

屈託のない笑顔を見せる。

「よかったら、次にここに来たときで結構ですから、ウチへも寄ってみてください」

祐樹は、スーツの内ポケットから営業用の名刺を出して、一枚ずつ渡した。

「良泉館（りょうせんかん）さんですか」白い浴衣の女の子が地図に視線を戻す。「良泉館、良泉館……あ、あった。ここですね」地図の右上隅にポツンと１つだけ離れている星印を指した。

「ええ、そこです。この温泉街の発祥の旅館で、いいお湯が出るんですが、あいにく今は温泉が修理中で……。修理が終わったら、ホームページに載せるので、その名刺を持って来てくれたら、湯上りの飲み物、ビールでもジュースでもごちそうしますよ」

「本当ですか！　行きます。絶対、行きます！」

「お待ちしてます」

女の子たちは軽く頭を下げてから、並んで湯遊亭へと歩いていった。女下駄がコツコツと心地よい音を立てて橋を渡っていく。

「いつか本当にあの子たちが来てくれるといいな」

祐樹は二人の背中に向かって丁寧にお辞儀をした。