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人妻愛人契約
第1章 10億の借金
そこから30分ほど歩くと川沿いの歩道が終わる。さらに山の方へ上って10分。ようやく祐樹は、『源泉かけ流し良泉館』と書かれた門に着いた。

少し寂れている気もするが、瓦葺の堂々とした門で祐樹は結構気に入っている。そこをくぐり、駐車場になっている前庭を抜けたところに玄関があった。

「ただいま」

「おかえりなさい。女将さん、もう帰ってますよ」

フロントに立っていた女性の従業員が教えてくれた。

「そうですか。ありがとうございます」

祐樹は礼を言って、フロント奥の事務所に入った。

希実(のぞみ)は、出かけた時と同じ黒いスーツ姿で立ったまま、ほとんどの日が空欄の白板を、じっと見つめていた。

ぱっちりしたアーモンド形の目。瞳の色は日本人には珍しい透き通るような明るい茶色だった。

すっと通った鼻筋に、桜色をした上品な唇。小顔にパーツがバランスよく配置されている。

髪型はふわりとした肩までのショートボブ。

身長はスラリと高く、タイトミニのスカートから見える白い太腿が眩しい。

一見すると、温泉旅館の女将というよりも、リゾートホテルのコンシェルジェといったほうが似合っている。

「お帰り。どうだった?」

希実は、美しい瞳を祐樹に向けた。

「全然だめ。相手にしてくれない」祐樹は、小さな冷蔵庫から牛乳を取り出し、来客用のソファに座った。「そっちは?」

「こっちも全然よ」

希実は、祐樹の正面に腰をおろすと、背もたれを使って伸びをした。スーツが左右にはだけ、豊かな胸に押し上げられた白いブラウスがピンと張る。いまにもボタンがはち切れそうだ。

「それはそうよね。10億も借金を抱えているオンボロ旅館に、わざわざお金を貸してくれる銀行なんてあるわけないわよね」

はあ~。女ざかりの31歳。その美しい顔が、悲しそうに天井を見上げた。
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