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人妻愛人契約
第2章 三河屋
希実も祐樹も言葉が出なかった。

「今の絶対わざとよね」希実がボソッと言った。「覚悟はしてたけど、沙耶さん、攻めてくるなあ」

「そうだね。今もそうだったけど、最初もいきなりきたもんね」

「そうそう、あのわざとらしい言い方……カチンと来ちゃった」

「よく怒らなかったね。会社にいたときの希実さんだったら、それどういう意味ですかって言い返してただろう?」

「そうしたかったわよ。でも、そんなこと言ってもしょうがないでしょ。結局、恥をかくのは、わたしになるんだから」

はあ、希実はため息をつくと、沙耶に入れてもらったお茶を啜った。

「おいしい。これ、きっと知覧茶ね」

祐樹も口に入れてみる。確かにおいしかった。甘みが強い。

「どこもかしこもウチとは全然違う。設備がいいだけじゃないわ。従業員の教育も行き届いてる。わたしたちが通るとみんなちゃんと会釈してくれた。人気が出るわけだわ」

希実は、悔しそうに天井を見上げた。

しばらく、二人は黙ったまま、しんみりとお茶を飲んだ。窓から渓流が流れる音が聞こえてくる。その静けさが、いまの二人には、少し物悲しく聞こえた。

「せっかくだから温泉に入ろうか」祐樹が誘うと、

「そうしようか」

希実は立ち上がった。沙耶に教えてもらった箪笥を開ける。

「凄い。浴衣がたくさん入ってる」希実は女物の浴衣を全部出して畳の上に並べた。「16種類もあるわ。みんな可愛いし、どれを着るか迷っちゃう」

一つひとつ手に取って見比べている。祐樹は、部屋についている露天風呂を見てみた。ここもかけ流しのようだ。ちょうどいい具合のお湯になっている。

「希実さん、ここの部屋の温泉、二人で入っても十分広いよ。一緒に入ろうか」

祐樹は、浴衣を選んでいる希実の背中越しに声を掛けた。

「そうね。たまにはいいかもね」

希実は、やっと表情を緩めた。
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