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人妻愛人契約
第1章 10億の借金
東ノ沢温泉(とうのさわおんせん)の発祥は、平安時代に遡るらしい。戦国時代には、かの武田信玄もつかったことがあると言われている。

そこに江戸時代末期、希実の先祖の伊東泰源(たいげん)が温泉旅館を建てた。それが現在の良泉館だった。

当時、この辺りに温泉は他になく、結構繁盛したようだ。戦前の伊東家は東京にも聞こえる名家として、それなりの財を成していた。

戦後、温泉の掘削技術が進歩すると、新しい温泉旅館が次々と建っていった。伊東家は、地域の名家として、そうした旅館を束ねて組合をつくり、理事長を務めた。希実の父・泰三(たいぞう)も祖父から理事長を引き継ぎ、一時は県会議員にもなっている。

しかし、そうした旅館は、すべて市街地に近い川沿いに建ったものだから、いつの間にか良泉館だけが、離れたところにポツンと取り残されてしまう形となった。いま人気の湯めぐりも、お客さんたちが足を伸ばしてくれることは、ほとんどなかった。

希実は泰三の一人娘だったが、旅館を継ぐ気はなく、大学の理工系を卒業すると、システム会社にITエンジニアとして就職した。そこで二つ年下の後輩で、やはりITエンジニアだった祐樹と知り合い、結婚。娘の愛未(まなみ)も授かり、三人で東京で幸せに暮らしていた。

ところが、昨年、泰三が急逝してしまい、急遽、希実が良泉館を相続することになってしまったのである。
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