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人妻愛人契約
第3章 初めての夜
午前零時を回った頃、部屋のチャイムが鳴った。

戻ってきた!

祐樹は飛び起きると、裸足のまま玄関に駆け降り、ドアを開けた。

しかし、立っていたのは希実ではなく沙耶だった。トレイの上に、おにぎりを載せている。

祐樹は、ガックリと肩を落とした。

「要らないって、言ったのに……」

恨めし気に呟いたが、沙耶は表情一つ変えず、「失礼します」と言って、部屋の中に入ってきた。女将の仕事は上がったのだろう。白地に桔梗の柄の入った浴衣に着替えている。帯は明るい赤を締めていた。

「希実さんなら、今夜はお戻りになりませんよ。旦那さまが、そうおっしゃってました」

畳の上に座りながら、沙耶が言った。祐樹の顔が険しくなった。

「え、どうしてです? まさか、一晩中……」

「さあ、それはどうでしょう。旦那さまは、お強いですから、それもあるかも知れませんが、ゆっくりとお話ししたいだけかも知れません」

沙耶は、口元に笑みを浮かべた。トレイを畳の上に置く。

「そんな……」

「気になりますか?」

祐樹は頷いた。

「だったら、明日の朝、希実さんに直接、どうされたか聞かれるといいです。遅くとも朝食前にはお返しすると、おっしゃってましたから」

「そんなことできるわけないじゃないですか」

「どうしてですか? 愛し合ってるなら、隠し事をする必要はないんじゃありませんか?」

祐樹は答えられなかった。愛してるから、希実のことが気になるし、すべてを知りたいと思う。でも、愛してるからこそ、聞きたくないという気持ちも一方ではある。希実だって同じだろう。愛してるからこそ、言いたくないことはあるはずだ。

祐樹が黙っていると、沙耶が味噌汁のお椀を差し出してきた。

「さあ、どうぞ、召し上がってください」

「要りません」

祐樹は顔を背けたが、沙耶は、「そんなことをおっしゃらずに」としつこく勧めてくる。

「要らないっていってるでしょう!」

思わず祐樹は大きな声を出すと、手で払い退けた。

バシャッ!

味噌汁のお椀が飛ばされ、中身が沙耶の浴衣にかかった。

「あっ!」

二人が同時に声を上げた。
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