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第1章 10億の借金

二人の間では、社長は希実がやる予定だった。能力が高いことに加え、サバサバした性格で面倒見がよく、サラリーマンのときもプロジェクトリーダーとして活躍していたからだ。根っからの理工系でオタクの祐樹は、希実のプロジェクトのメンバーに過ぎなかった。

しかし、ある先輩経営者から「実質経営するのは希実さんだとしても田舎の町だ、社長は男の祐樹さんがいい」というアドバイスを受け、男を立てる古風な一面もあった希実も、「その方が、気が楽かな」と言い、結局祐樹が社長になり、希実は女将となった。

それから半年、二人がようやく旅館の経営にも慣れてきたときに不幸にも良泉館の唯一の売りである源泉をくみ上げる設備が壊れてしまった。業者に見積もりを頼むと、老朽化した井戸の補強も含め修理に4000万円ほどかかるという。とてもじゃないが今の良泉館で用意できる金額ではない。

お湯が出なければ、旅館は経営できない。とりあえず銀行に相談してみようと、今日二人は手分けして、取引先の銀行に頭を下げに行ったというわけだ。