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絶対に許さないからね
第12章 父の遺言
項垂れ肩を震わせている母さんを見ていると、おれに怒鳴りつける資格はあるのだろうか、という気持ちになった。おれは母さんを大切にしてきだろうか。甘えさせてやれていただろうか。機嫌の悪い顔を見せていなかったか。おれは母さんに、おれだけを見ていろ、と言うに足る夫だったか。
おれは、自分で言うのもなんだが、相当なバカだ。母さんがなにを望み、なにをして欲しいか、全く気づいてやることができなかった。そもそも考えてさえいなかったかもしれない。なにか欲しいものはなかったのか、旅行に行きたい場所はなかったのか、したいことはなかったのか。思い出そうとしても、なにひとつ思い浮かんでこない。仕事仕事仕事、休みはゴルフばかりで、母さんを蔑ろにしていた。思いやっていなかった。暴力をふるわないってだけで、それ以外は最低ランクの夫だったと思う。
それなのに、おれが倒れてからの母さんの献身ぶりは、お前も知っている通りだ。母さんは、お前や美香にするのと同様に、こんなおれにさえ、無償の愛を与えてくれる。昔からずっとだ。そんな母さんに、おれはもう報いてやることができない。だから、というわけではないが、お前たちに頼みがある。
どうか、母さんを許してやって欲しい。
さっきも言ったが、おれはいい夫ではなかった。なぜもっと、思いやれなかったのか。どうしてもっと、大切にしてやれなかったのか。今さら言っても仕方のないことだな。もうタイミングを逃してしまった。チャンスはもう二度と訪れない。
正孝。おれのようになるな。しのぶさんを大切にしろ。幸せにしてやってくれ。
そして美香に伝えてくれ。銀一郎くんに、思いきり甘えなさい。男は、甘えてもらえることが嬉しいものだ。銀一郎くんなら、あの大きな体に似合う大きな心で、美香の全てを受け止めてくれるだろう。
長くなってしまったな。疲れてきたよ。今、母さんがポータブルトイレの掃除をしてくれた。すまない、と言ったら叱られてしまったよ。改めて思う。母さんはほんとうに、ほんとうに佳い女だ。
おれが死んだあとまで、おれなどに縛られる必要はない。
母さんを自由にしてやってくれ。
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よ、よし。
なんとか最後まで読み切ったぞ。
明日にでももう一度読み直そう。
内容をちゃんと理解するのはそれからだ。

 今日はもう寝るぞ。
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