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絶対に許さないからね
第12章 父の遺言
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 正孝。
おれの頭がはっきりしているうちに、これを書き残しておく。
お前がこれを読んでいるということは、もうおれはこの世にいないのだろう。
いや、すまない。一度言ってみたかったのだ。ずっと昔に映画で観て以来、憧れていたセリフだ。
本題に戻そう。財産、相続の件は、以前に話した通りだ。お前と美香なら、金のことで醜い争いはしないとわかっている。心配なのは母さんのことだ。お前はともかく、美香の怒りは相当なものだろう。あれらは仲が良かったからな。仲が良かった分、許せないのだろう。美香が、裏切られたって気持ちになることも理解できる。
こんなことになってしまう前、母さんと美香はとても仲が良かったな。母さんはいつまでも美香を小さな子のように甘やかし、美香はそんな母さんのことが大好きだった。朝起きていくと、リビングからふたりの笑い声が聞こえてくる。嬉しそうで、楽しそうで、寒い朝でも温かかった。出掛けた先でふたりが並んで歩いている姿は、母娘というより姉妹のようだった。ふたりの少し後ろを歩いていると、すれ違うやつらがかなりの確率で振り返るんだ。そいつらひとりひとり捕まえて、あれおれの嫁と娘なんすよ、と自慢してやりたかった。誇らしかったよ。幸せだったのに、おれはその幸運を、いつしか当たり前のように享受するようになっていた。
母さんの変化に気づいたのはいつだったか、もう忘れてしまったな。信じたくなくて、目を逸らせていた。母さんの言う嘘を、必死に信じようとした。逃げても解決しないという事実とさえ、まともに目を合わせることができなかった。情けない男だ。
もう逃げられなくなり、現実を突きつけられ、修羅場となったな。お前はいなかったからわからないだろう。あのときの美香の目。正座をして全てを白状する母さんを見下ろす美香の目だ。一瞬熱を感じるほど、燃え上がるような激情のあと、ぞっとするほどの冷たい目に変わった。おれは慌てて、母さんから美香を遠ざけた。そうしないと、美香は本気で母さんを殺してしまうと思った。美香から発せられていたのは間違いなく殺気だった。
かくいうおれも、殺意を抱くとまではいかないにしろ、母さんに腹を立てた。ふざけるな、と怒鳴りたかった。もちろんそんなことはできなかったよ。
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