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お天気お姉さん~明日、晴れるかな~
第14章 還暦女が掴んだ幸せ
「あの…旦那様…」
いつになく神妙な幸恵の声に
飲もうとしていたコーヒーの手を止め
「なんだい、幸恵。
言いたいことがあるならハッキリと言いなさい」と
言いづらそうにしている幸恵の背中を押した。
「は、はい…お願いがございます…」
「お手当ての件かな?
そういえば永らくお前の給金をアップしていなかったね」
言いづらそうにしているからには
てっきり給金の値上げの要望だと久は考えた。
「い、いえ…そうではございません…」
「では、いったいお願い事って何だね?
もったいぶらないでさっさといいなさい」
「では、申し上げます…
お願いです…このお仕事にお暇(いとま)をお願いしたいのです」
「えっ?そりゃまた藪から棒だな…」
思えば自殺をしようとしていた幸恵を思い止まらせ、この屋敷にメイドとして迎えて四半世紀…
ずいぶんと長い年月を浅香家のために尽くしてきてくれたものだ。
「どうぞ、私のわがままをお許しください」
「いや、許すもなにも
25年も尽くしてくれたのだ
引き留める権利など私たちにはないよ
それで…どこかの富豪に引き抜かれるのかい?」
「いえ、そうではございません…
この歳になって恥ずかしいのですが…
ある男のところに嫁ぎたいのです」
「ええっ!!」
「ほんとなの?!」
浅香夫妻があまりにも大きな声で叫んでしまったものだから
階上から「朝から何事だい?」とこの家の一人息子の準までもが血相を変えて降りてきた。