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♥crack an APPLE♥
第3章 優しさで愛する人を救うことなどできない
「……」
水望はあまり自己主張はしない穏やかな性格である。
そんな彼が今日はいやにしつこく迫ってくるものだから、炬は不思議に思ってうーん、と唸る。
タバコを取り出し火をつけると、それをおもむろに口に咥え出す。
「……なんで?」
「え?」
「なんでおまえはそんなこと急に言い出したんだよ。今の自分で満足できねぇのか」
ふう、と煙を吐き出し炬は水望を見つめる。
そうすれば水望は俯き、呟いた。
「……ですから、その……ほら、最近更に魔物が増えてきたじゃないですか……とても強いものもいる……万が一、ということもあるでしょう?」
「あ? そういう奴らは俺たちが狩るから大丈夫だよ。それにおまえが敵わない奴なんてそうそういねぇ」
「わからないじゃないですか……! もしも、もしも……」
「……あのよぉ、水望」
とん、と灰皿に灰を落とす。
炬がじろりと水望を睨みつければ、水望はぐ、と息を飲んだ。
「……何をそんなに慌ててるんだ?」
「……!」
「前に俺の下で修行していたとき……おまえは自分よりも強い魔物を見てビビっていたか? そんなことねぇよな? 俺がこう教えたからだ。『敵わねぇ奴からは躊躇わずに逃げろ』ってな。逃げるための術を俺は教えている。おまえはそれを完璧に習得したんだ。……それをどうした? どうして「退魔術」を教えてくれなんて言い出した」
水望が唇を噛む。
伏し目がちの瞳の睫毛が震えている。
炬が問う。
「――おまえはどうして魔物を祓うための術を知りたい?」