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♥crack an APPLE♥
第5章 それが糧とならないように祈りましょう
***
「噂では聞いていましたけど……こうして見たのは初めてです……水望さんのこと」
「うん……そりゃあ……僕もそんなにふらふらしているわけじゃないからね」
「……あの」
少女の名前は巴月といった。
巴月は貸してやった毛布を肩から被り、淹れてあげた紅茶のティーカップをもって水望を見つめる。
「……私、水望さんがいなければ死んでいました……本当に……本当に、ありがとうございます……!」
「ううん、いいのいいの。困っている人を助けるのが僕の仕事だから」
「……でも、不思議です」
「……何が?」
ぽろ、と巴月の瞳から涙がこぼれ落ちる。
「私……あの瞬間まで、死んでもいいって思っていたんです。あの魔物に食べられそうになって……ああ、ここで死んじゃうんだぁ……って、なんか諦めていました」
「……うーん……まあ、人間ってそういうもんじゃないかな。恐怖が限界を超えると途端にどうでもよくなる」
「……ふふ、そうかもしれませんね。……でも違うんです。私は、あんな目に合う前から、どこか生きることを諦めていました」
巴月はにこっと微笑んだ。
涙で瞳を濡らしているというのに、どこかその表情は明るい。
水望はなぜか、そんな彼女から目がそらせなかった。