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♥crack an APPLE♥
第5章 それが糧とならないように祈りましょう
巴月がにこっと笑うと、ふわりとその髪の毛が揺れた。

儚げに、そして……どこか力強く。

その不思議な笑顔に水望ははっとする。



「理由はわかりません。……でも。あなたに助けられたとき、私は……やっぱり生きていたいって、そう思ったんです」



少女に、あの時の水望は一体どう見えたのだろう。



自分を殺そうとしたおぞましい化物を颯爽と祓って、へたりと座り込む自分に手を伸ばしてきたエクソシスト。

見上げた先の、彼の背後に広がる夜空に満天に広がる星たち。

蒼く輝く月の光。

もしかしたら、少女はそのとき初めて夜空を見上げたのかもしれない。

初めてみた星空は、大きな月は、美しかっただろうか。

宝箱をひっくり返したようにキラキラと綺麗なそれは。



「……そう、それならよかった。僕が君を助けて、それが君にとって良いことだったのなら」

「はい。……もしも、誰からも愛されなくて、みんなから嫌われても……もう少し、生きていたい」

「……あまり決め付けるのはよくない」

「……? 何をですか?」

「まだ君は若いのに……これから新たに何人の人と出会うと思ってる。その全てが君の村の人のようなことを考えるとは思えない」

「いえ。普通に考えて私の境遇は誰から見ても」

「少なくとも僕は、君を怖いとも気持ち悪いとも思わない」

「え?」



ただ……たとえば世界が素晴らしく美しいとして。

でも、そこに一人ぼっちだったのなら、誰とその美しさを語り合うというのだろう。

初めて世界の美しさに気付いた少女は、まだその疑問を抱く段階には至っていないのだ。



そう、だから諦めないでほしい。

君を愛する人がきっとこの世界にいるのだという可能性について。



「……いるよ。きっと、君を愛してくれる人は。もしかしたら僕がその一人かもしれない」


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