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♥crack an APPLE♥
第5章 それが糧とならないように祈りましょう
「……、優しいん、ですね」
あまり確証のないことは言わない主義だ。
中身のない言葉は好きじゃない。
だから、この口からでた言葉に水望は自分で驚いていた。
冗談にしてはタチの悪いことを言った気がする。
実際にこの言葉を聞いた巴月は、俯き、瞳を震わせ、どこか傷ついたように唇を噛んでいる。
「からかわれた」、そう感じているのかもしれない。
が、からかったつもりは、ない。
「……君を慰めるわけにいったわけじゃないよ。ただ、思ったことを言っただけだ」
「……水望さん」
「……うん?」
「……手を、握ってもいいですか」
巴月は、震えていた。
緊張からだろうか。
周囲から避けられ、嫌われ、気味悪がられていた彼女にとって、この言葉を発することは、勇気のいることなのだろう。
それは十分承知だったが、とりあえず、水望は質問を返す。
「……どうして?」
「……いいえ。たぶん、こんなことを言ってくれる人はこの先現れないかもしれない。私を怖いって言わない人はもういないかもしれない。……だから、私を嫌わないって言ってくれた水望さんに触れて、……せめて人の暖かさを知っておきたいんです」
「……」
「……あ……やっぱり、嫌、ですよね。……ごめんなさい……調子にのっ」
「ほら」
「……え」
「手、だして」
巴月が顔をあげる。
瞳が、揺れている。
差し出された水望の手を、恐る恐る見つめていた。
きゅっと眉が寄せられる。
睫毛が震える。
「……家族以外に触れるのは……初めて?」
「あ……」
なかなか動こうとしない巴月の手に、水望はそっと自分の手のひらを重ねた。