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♥crack an APPLE♥
第5章 それが糧とならないように祈りましょう
ぐす、と泣跡をすする音がする。

ああ、泣いている。

泣いているんだ。



「一人は……怖いです」

「うん」

「本当は……みんなと、お話したり…したかったのに……」

「……うん」



巴月は水望の首元に頬をよせた。

腕を遠慮がちに、その背に回す。

それを感じた水望が巴月を抱く腕に少しだけ力を込めてみれば、巴月ぴくりと反応する。

緊張しているかのように大きく息を吸い、やがて、落ち着いたように静かに息を吐く。



「水望さん……いいんですか?

「うん?」

「一緒にいて……いいですか……?」



消え入るような彼女の声。

小さな小さな弱々しい声だというのに、それは水望の心を大きく抉っていく。

そんなことを頼むのに、怯えるなよ。

難しいことでもなんでもないというのに。



「うん。もちろん。巴月、これからよろしくね」

「……!」



彼女の名前を呼んでやれば、彼女はぱっと体を離す。

名前を呼ばれることすら慣れていなかったのかもしれない。

巴月はしばらく戸惑ったように目を泳がせていたが、やがて、水望をそっと見つめる。

そして、涙を拭って言う。



「……はい。よろしくお願いします! ありがとうございます……水望さん……!」



巴月は微笑んだ。

その拍子に、一滴、また涙がこぼれ落ちる。

彼女は照れ笑いをしながらそれをまた拭おうとした。



「……、」



その前に、水望が指でそれをすくってやる。

そうすれば巴月は、少し驚いたような顔をしながら……また笑う。




胸に、ずきりと苦しさを覚えた。

もう一度、抱きしめたいと思った。



なぜか、できなかった。



この痛みはなんだろう。

ああ、そうか。




恋に堕ちたんだ。






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