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ヒヤシンスの恋
第1章 菫のため息
転勤で割り当てられたこの家は会社の借り上げ社宅だ。
家賃は会社が7割持ってくれるので、破格の安さだ。
ただ、少し変わった家だった。
和洋折衷のこじんまりした二階建ての家は明らかに有名な建築家が建てたような歴史と品格がある家だった。
水回りやキッチンはリノベーションしてあるので最新式で使いやすい。
他のリビングや洋間は大正モダンの面影を残す懐かしくもどこかミステリアスな家だった。

『隣りの家のひとが大家さんらしいよ。
貸主の名義が同じだった』

亮一はそう言っていた。

だから引越し早々、とらやの羊羹を持って挨拶に行ったのだ。
けれど、留守だった。
それから何回か訪問したが、やはり人がいる気配は皆無だった。

…こんなに広くて立派なおうちに住まないなんて、もったいないのに…。

庶民の菫はそう思いながら、毎日縁側から隣家の野薔薇の垣根を眺めるのだった。






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