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ヒヤシンスの恋
第1章 菫のため息
石畳みの長いアプローチを進み、大きな玄関扉の前に立つ。
チャイムはないからノッカーを何回か鳴らす。

…反応はない。

「ごめんください!お隣の羽村です!」

…やはり反応はない。

「おかしいなあ…。
さっきピアノの音が聴こえたのに…」

ふと玄関脇に視線を落とす。
鉢植えの可愛らしいミニ薔薇があり、そこに気まぐれで立てられたような小さなプラカードが眼に入る。

『…ピアノ教えます。稀村。
委細応相談…』

…やっぱり、ピアノをやってるひとが住んでいるんだわ。 
ピアノ教室なのかしら…。

その割には、日頃から人の出入りは感じないし活気もない。

「…それにしても、そっけなさすぎない?
初心者向けなんだか経験者向けなんだか分からないし、曜日も書いてないし…。
大体、玄関に広告貼っても見る人、限られるじゃない…」
…他人事ながら、気を揉む。

「ああ!そんなこと気にしている場合じゃないわ!
ピアノ教室なら尚更早くパンツ回収しなきゃ!!」

Tバックの下着を生徒たちに見られたら一大事だ。
見つかる前に、さっさとパンツを探さなきゃ。

菫は決意したように、玄関脇からそっと足音を忍ばせ、庭の中へと入って行った。





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