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ヒヤシンスの恋
第1章 菫のため息
足音を忍ばせながら庭に忍び込む。
…いや、庭というより庭園だ。
ちょっとした公園くらいの広さはゆうにある趣向を凝らした庭園には薔薇のアーチやパーゴラ、母屋の外壁には色とりどりの蔓薔薇が屋根の上まで這う。

薔薇以外の多彩な植栽や可憐な花々が緑に映え、まるで印象派の名画のように、菫の目の前に鮮やかに現れたのだ。

「…すご…い…」

暫し、茫然としながらその美しい花園に見惚れる。

「…こんな綺麗なお庭、初めて見たわ…」

テレビ番組や映画で見たイギリスの由緒正しい庭園のようだ。
緑と薔薇の柔らかな花の色が風に揺れる。
…辺りに漂う馨しい薫りは、薔薇の花からだろうか…。

思わず近くの大輪のクリームミルク色の薔薇に手を伸ばす。

「…きれい…。
…なんて言う薔薇かしら…」

突然背後から無機質な声が飛んだ。

「…ウォラトン・オールド・ホールだよ。
不法侵入の割には呑気だね。可愛いお姉さん」

菫は飛び上がるほどに驚き、慌てて振り返る。

「…あ…」

…その瞬間、菫は微動だにできないほどの衝撃を受けた。

眼の前に佇むのはこの世の者とは思えないほどの透明感と煌めきを湛えた美しい青年だったのだ。

…なんて…なんて綺麗なひとなの…。

菫は思わずその場にへたり込む。

…こんな…こんな綺麗なひと…今まで見たことがない…。
夢?
私は…夢を見ているのかしら…?




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