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ヒヤシンスの恋
第2章 薔薇の秘密
何か書き付けていたノートを閉じるなり、染布は尋ねた。
「ミレイ、何か弾きたい曲ある?」
「え?」
「好きな曲とか、ない?
クラシックじゃなくてもいいよ。ポップス、ロック、ミュージカル…」

…え、それよりも…
「…あのう…私、20年以上ブランクがあるので…楽譜読めるか指が動くかも怪しいんですけど…」

「大丈夫。譜面通り弾かなくてもいいし。
その辺はテキトーに改ざんしてあげる」
「テキトー?改ざん?」
何このひと。
適当にもほどがない?
菫は呆気に取られる。

染布はにやりと笑った。
「ミレイ。
最初はハノンで指の練習してまたツェルニーでテクニック、ブルグミュラーで練習曲やって…て思ってた?」
「…はあ…まあ…」
…てかそれが普通なんじゃないの?

「そんなつまんない修業みたいなレッスンするから皆んな続かないのさ。
別に今からピアニスト目指す訳じゃないでしょ?」
「も、もちろん!」
「…だったら自由に好きな曲だけ弾けばいい。
音楽なんて皆んなが自由に楽しめばいいんだ。
…そう、心をすべて解放して…魂を自由に遊ばせて…」

染布は、ふっと言葉を止め…

「…ま、これはある人の受け売りなんだけどさ…」

はっとするほど寂しげな微笑みを浮かべた。
胸が締め付けられるほどに哀しげで…けれど美しい横貌…。

…なんなの、このひと…。
なんなのよ…。
まるで、わからない。

…こんなひと、初めて…。

「弾きたい曲は何?ミレイ」

彼はそう優しく尋ねたのだった。


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