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ヒヤシンスの恋
第2章 薔薇の秘密
zoomを終え、パソコンの画面をオフにする。
暗くなった画面を菫はぼんやりと見つめる。

…有紀子に言わなかったことがひとつある。

あの夜、帰る菫を兄の尊文が家まで送ると言って、薔薇園のプロムナードの石畳みを先導して歩き始めた。

月明かりが、煌々と青年の端正な後ろ姿を照らし出す。

…随分、背が高いひとだ。

菫はすらりとした後ろ姿を見上げる。

仕立ての良いスーツは、おそらくオーダーメイド品だろう。
均整の取れた体躯に沿うように仕立てられているのが分かる。
…仄かなグリーン系の薫りは、外国製のトワレだ。

…不動産と…あと何を経営しているのかしら…。

私より何歳も若いのに…。

感心するような、羨ましいような…少しコンプレックスのような複雑な気持ちを抱く。


…裏木戸を通り抜け、菫の家の敷地内に着いた刹那、青年は振り返る。

彫像のように整った貌が、菫を冷たく見下ろしていた。

…その言葉は、唐突とも言えるものだった。

『染布を好きにならないで下さい』


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