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ヒヤシンスの恋
第1章 菫のため息
風呂上がり、菫はドレッサーの前に座りコットンに含ませた化粧水を貌に叩きつける。
素顔の自分をまじまじと見つめる。
…不美人ではもちろんないが、人々を驚嘆させるほどの絶世の美女ではない。
高校生、大学生とそこそこにモテてきたとは思うが、それでも華やかな義姉の沙織や美人で有名だった有紀子に比べたら地味なものだ。
けれどほっそりとした童顔なせいか、32歳には見られたことはない。
大抵20代半ばか、大学生に見られたこともある。
『スミちゃんはめちゃくちゃ可愛いからなあ。
早く俺の嫁さんにしないと他の男に取られそうで心配だよ。
夜も眠れないよ』
…かつてそんな風に甘く熱い言葉を囁いてくれた亮一は、今ダブルベッドで静かに寝息を立てている。
出張向けの資料を見ながら眠りに落ちたらしい。
鏡越しに夫をじっと見つめる。
…最近は全然言ってくれなくなったな…。
もちろん亮一は優しいしとても良い夫だ。
仕事が忙しくても疲れていても不機嫌な貌など見せたことはないし、休日は菫がしたいことを優先してくれる。
喧嘩したこともないのは、全て亮一が先に折れてくれるからだ。
『亮一さんは優しいわねえ。
菫は幸せだわね、あんなに優しい旦那様で』
母や友人たちは口を揃えて言う。
確かにそうだろう。
優しい上に真面目だ。
仕事が大好きだが、ワーカーホリックではない。
お酒も好きだが、酔って醜態を晒すことはない。
楽しく陽気なお酒なので飲み友だちも多い。
けれど、絶対に浮気をしたり女の子にちょっかいを出したりもしない。
菫を大切にしてくれるし、菫の自由も尊重してくれる。
…恋愛していた頃の濃密な愛は感じないけれど、温かく優しい家族愛は常に感じられる。
守られている安心感も感じられる。
「…私にはもったいないようなひとだわ…」
…それは分かっている。
菫は幸せなのだ。
働き者で優しくておおらかな夫…。
見映えも良い。
年収も同年代のサラリーマンにしては多いほうだ。
お金の心配をしたことは一度もない。
…これで幸せではないと言ったらバチが当たる。
分かっている。
…だけれど…。
「…なんだか、すごく寂しいよ…亮ちゃん」
口に出して、初めて衝撃を受ける。
菫は慌てて首を振る。
…私ったらなんてことを…。
急いでベッドに飛び込み、眠る夫の隣に潜り込んだ。
素顔の自分をまじまじと見つめる。
…不美人ではもちろんないが、人々を驚嘆させるほどの絶世の美女ではない。
高校生、大学生とそこそこにモテてきたとは思うが、それでも華やかな義姉の沙織や美人で有名だった有紀子に比べたら地味なものだ。
けれどほっそりとした童顔なせいか、32歳には見られたことはない。
大抵20代半ばか、大学生に見られたこともある。
『スミちゃんはめちゃくちゃ可愛いからなあ。
早く俺の嫁さんにしないと他の男に取られそうで心配だよ。
夜も眠れないよ』
…かつてそんな風に甘く熱い言葉を囁いてくれた亮一は、今ダブルベッドで静かに寝息を立てている。
出張向けの資料を見ながら眠りに落ちたらしい。
鏡越しに夫をじっと見つめる。
…最近は全然言ってくれなくなったな…。
もちろん亮一は優しいしとても良い夫だ。
仕事が忙しくても疲れていても不機嫌な貌など見せたことはないし、休日は菫がしたいことを優先してくれる。
喧嘩したこともないのは、全て亮一が先に折れてくれるからだ。
『亮一さんは優しいわねえ。
菫は幸せだわね、あんなに優しい旦那様で』
母や友人たちは口を揃えて言う。
確かにそうだろう。
優しい上に真面目だ。
仕事が大好きだが、ワーカーホリックではない。
お酒も好きだが、酔って醜態を晒すことはない。
楽しく陽気なお酒なので飲み友だちも多い。
けれど、絶対に浮気をしたり女の子にちょっかいを出したりもしない。
菫を大切にしてくれるし、菫の自由も尊重してくれる。
…恋愛していた頃の濃密な愛は感じないけれど、温かく優しい家族愛は常に感じられる。
守られている安心感も感じられる。
「…私にはもったいないようなひとだわ…」
…それは分かっている。
菫は幸せなのだ。
働き者で優しくておおらかな夫…。
見映えも良い。
年収も同年代のサラリーマンにしては多いほうだ。
お金の心配をしたことは一度もない。
…これで幸せではないと言ったらバチが当たる。
分かっている。
…だけれど…。
「…なんだか、すごく寂しいよ…亮ちゃん」
口に出して、初めて衝撃を受ける。
菫は慌てて首を振る。
…私ったらなんてことを…。
急いでベッドに飛び込み、眠る夫の隣に潜り込んだ。