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ヒヤシンスの恋
第1章 菫のため息
…一週間後、亮一はシカゴに旅立って行った。
本当は成田まで送りに行きたかったが
「本部長も営業部長もいるんだよ。
新婚でもあるまいし。
恥ずかしいから来なくていいよ」
亮一が固辞したので、玄関先での見送りになった。

「スミちゃん、戸締まりには気をつけろよ。
SECOMと契約したから大丈夫とは思うけど、絶対にダブルロックしてね。
…やっぱり実家帰った方がいいんじゃないか?
お義兄さんもいるしさ。水入らずにのんびりしてくるのも良くないか?
…ここ、隣りはやたらだだっ広い家だわ庭は鬱蒼と樹が茂ってるわ…なんか心配になってきたよ、俺」

亮一は不安そうに隣家を見遣った。

…垣根の向こうは広大な敷地の中に建つ古めかしい家屋敷だ。
亮一が言うようにまるで森のような背の高い樹々が生い繁り、簡単には家の全貌が分からないほどだ。

「隣り、誰が住んでるんだ?
全然人の出入りないし、なんか生活感ないよなあ」
「引っ越して来た日に菓子折り持って挨拶に行ったけど、誰も出て来なかったなあ。
…あの木立ちの奥ね、すっごいの。
まるで薔薇園みたいに蔓薔薇が茂っていてさ、その奥にお家があったんだけど、昔のイギリスのお金持ちのお家あるじゃない?
カントリーハウス…てやつ?
すっごく洒落た洋館なの。
でもめちゃくちゃ古いの。
ノッカーがあったし、中から執事とかが出てきそうだったよ。
まるでタイムスリップしたみたいだった」

亮一が凛々しい眉を寄せる。
「え〜。大丈夫かな。変な奴が住んでないかな。
スミちゃん、やっぱり実家帰りなよ」

菫はさすがに吹き出して、亮一の背中を押しやった。
「大丈夫だってば。
きっと耳の遠いおじいちゃんとかおばあちゃんが住んでいるんでしょ。
さあもう行かないと、リムジンバスの時間に間に合わなくなるよ」
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