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第16章 交渉決裂

でも、腑に落ちないことはあったわ。それを伝えることにしました。

「どうして。わたしなの？」

そう、痴漢をしたいのなら、世の中にはいくらでも女性はいます。先日などは横に女子高生だっていました。明らか、私を狙って付き纏っている現状は、今までの話では符合しません…。

「それは、君が魅力的だからだよ」

と、答えるジラーフ。なんとなく、引っかかる言い方…。それに、腑に落ちない。

「そもそもはね。あなたが吉見先生と結婚したからよ」

と、ズバッと話したのは、ハイエナ。私は眉を顰めた。夫と結婚したからというより、夫の名前。そして、先生。夫を吉見先生と呼ぶのは、病院関係者や医師仲間。そういえば、病院で看護師集団から睨まれた…。

そう、私は看護師が医師と結婚するということに憧れているとか、夫が看護師たちから結婚相手として求められているとは思っていなかった…。だから、意味がわからなかった。

私が知っている夫は、真面目で知的、自利利他の精神で医療に励む医療従事者、そして、私には優しい人。あと、顔立ちは眉がキリっとした眼光の鋭い昭和の男前という感じ。欠点は、低身長なことと、神経質なこと。と言っても、医師は平均に身長が低い感じはするけど…。

女性に求めるか？と言われれば、若い頃はある程度はモテたかもしれないけど、いまは、50歳…。

私がピンとこないことに苛立つ感じのハイエナが、

「わからないのね。私も20年前は看護師だったわ。私が吉見先生と知り合ったのは、看護学校時代。実習で大学病院に行ったら、そこに研修医だった吉見先生がいたわ。みんなの憧れだったわ。あの病院の私くらいの歳の看護師の大半は、吉見先生に憧れて、就職したのよ。でも、吉見先生は、海外研修に行って、そこで知り合った、薬剤師と結婚した。そう、それが、あなたにとって先妻に当たる人」

と、話して私の様子を見たハイエナ。夫がそういう存在だったことに驚きだったわ。でも、言われてみれば、医療従事者のなかで、医師は最上位。収入もステータスもあるのだと、やっと理解できた。私みたいに単に「話をしていて楽しい」人という位置づけではないということもわかったわ。

先妻が薬剤師だったことは聞いていたから知っていたけど…。