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unbalance
第16章 拒絶
顔を上げて、はじめて気づいた。
霧野の、怯えた目。
蒼白な頬。
震える唇。
出てきた感情は――また彼女を怖がらせてしまった後悔でも、同じ失敗を二度した落胆でも、なかった。
自分がこんなに汚い人間だとは知らなかった。
ただ俺は悪くないと、それしか考えられなかった。
「霧野」
俺は彼女からそっと手を離して、距離を取った。
俺にずっと掴まれていた右手首を、彼女はもう片方の手で、胸の前で抱き締めるように覆った。
着衣も髪も乱れていた。
その姿は、被害者そのものだった。
それが逆に癪に触った。
こういうとき、いつも女は被害者で、いつも男が加害者だ。
いいって言ったじゃないか。
自分でうちまでついてきたんじゃないか。
「俺を弄ぶの、もうやめてくれないか」