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第17章 顔色



「はい。何かありました?」

「いや……その……」

 先輩は言い淀んで、そして、

「何でもない、気をつけてね」

と締めた。

「ありがとうございます。行ってきます」



 いや……いやいや、先輩。そこははっきり言ってくれないんですか!

 私は慌ててポーチを引っ掴んで、相馬のあとを追った。



 ――これはさすがに、気まずいとか言ってらんないレベル!



「相馬!」

 一直線の廊下で、相馬の背中に呼び掛けた。
誰もいなくて助かった。
相馬がゆっくりこちらを振り返った。
ああ――本当に、生きてるのか死んでるのかわからないような顔だ。



 それはもう、このままお客様に会ったら、うちの会社が傾いてるんじゃないかと疑われてしまうほど。



「ちょっとだけ、時間ある?」

 急に走って息を切らしながら、相馬に尋ねる。相馬が腕時計を見る。

「ちょっとって、どれくらい?」

「十五分……いや、十分で何とかする」

「まあ……それくらいなら」



 気まずい、のは確かだけれど、仕事とプライベートは別。
そして今は、仕事の時間だ。


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