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第3章 夜道



 相馬を見上げると……意外だった。
相馬が目を丸くしてこちらを見ていた。
何、その間の抜けた顔。まるで予想外みたいな。
あんたが自分で言ったことじゃない――

 しかしそれも一瞬のことだった。
相馬はいつもの意地悪な笑みに戻った。
勘違いだったのではないかと、自分の視力を疑いたくなるほどに。



「そうだよ。だから、意固地になると自意識過剰みたいだぜ」

「そっ……」

「現実問題、」

 相馬が私を遮って語気を強める。
その目に、ちょっとだけ真剣な色が混じる。

「同じ二時間待つなら、ここで濡れたまま立ちっぱなしで待っても、うちで体拭いて、飯食いながら待っても、変わらないだろ」

 それは、確かに……そのとおりだった。

「だったらうちで待ったほうがよくね?」



 反論が出てこなくなった私に、相馬はもう一度傘を開いて、

「戻る形になるから、もう二十分ぐらい歩くけど。頑張れるか?」



 ……なんで、急に――、

 そんな優しい言い方をするの。



 肩を抱き寄せられて、私はできるだけ縮こまる。
よし、と私の背を押して歩き出す相馬の表情を見ることもできなくて、ただただ相馬の体温を感じながら、私たちは激しい雨の中に再び繰り出した。


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