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unbalance
第25章 台詞
「わ、私、洗面所で服着るからさ、」
「いいよ、そこでも。見られたくないなら、俺、部屋入るわ」
相馬はそう言うと、廊下に打ち捨てられていたズボンを引っ掴んで、ベッドルームに引っ込んでいった。
死角に入るけれど、……ドアは閉めないらしい。
衣擦れの音が聞こえてきて、私も急いで汗拭きシートで体を拭って服を着る。
部屋の中から、姿の見えない相馬の声が掛かる。
「霧野」
「何?」
スカートのファスナーを上げながら返事をする。
「その……帰るの?」
「うん。帰るよ」
「もうちょっと、ゆっくりしてけば?」
何言ってんの、こいつ。
ゆっくりして、どうなると言うのだ。
「明日も仕事だし」
腕時計を見ると、もう八時を過ぎていた。
「……そうだな」
着替え終わって、もういいよと声を掛けると戸口から相馬が顔を覗かせた。
コットンパンツにTシャツのラフな格好。
そりゃそうだ、スーツを着直す意味はない。
髪は、こないだのお風呂上がりのようではなく、職場で見慣れたセット後の姿だけれど。
玄関でそのままパンプスを履いていると、ぺたぺたと足音が近づいた。
私が振り返らないうちに、背後、さっきより近くから、声が掛かった。
「あのさ……霧野」
私は無視して立ち上がる。ドアノブに手を掛ける。
「俺ら、付き合いません?」
心臓が止まるかと思った。