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第25章 台詞



「霧野」

 相馬が私を優しく抱き締める。

もともと相馬のほうが背が高いのに、玄関の段差はパンプスのヒールじゃ埋まらなくて、相馬の胸元に顔をうずめる。
交わした視線が外れる代わりに、温かい体温が私を包む。



 ――嫌だ。

 仮初の幸せにずぶずぶに慣らされながら、それが仮初であることを、ちくちくと自分に刻まなければいけない日々なんて。



「帰る」

 私は今度こそ、相馬の胸を押し退けた。



「……ごめん」

 相馬はそれ以上何も言わなかった。


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