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unbalance
第26章 コンシーラー
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「霧野、ちょっと」
自分から私を避けていたくせに、部屋の入口から相馬が私を手招きする。
いや、避けていたというのはやっぱり私の思い込みか。
「資料の話なんだけど」
午後三時の営業フロアは半分以上の社員が出払っていて、でも管理職をはじめ、数人が残っている。
こういうときは、人が多くて騒がしい朝よりかえって会話は筒抜けだったりする。
つっけんどんな返答はできない。
仕方がないので、相馬に続いて廊下に出た。
「どうしたの?」
相馬は、そのまま自販機のあるちょっとした休憩スペースまで私を連れていった。
自分の席じゃだめなの?
……本当に資料の話でしょうね?
まさか、昨夜のことを蒸し返すんじゃ……。
というのこそ、私の考えすぎだった。
「手書きで悪いんだけど」
椅子に向かい合わせで座っていきなり、相馬はテーブルにメモ帳を広げた。
荒っぽい文字でぐしゃぐしゃと何か書きつけてある。
ページは一部折れたり破れたりしていた。
「今週締めで受けてるやつは、半分、来週頭に回してもらった」
「えっ」
まさかそう来るとは思っていなかった。