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第30章 個室



 私が仕事の飲み会で最初の一杯だけ付き合うのは、そういう理由からだった。
自分だけ違うもの頼んで、乾杯を待たせて気まずくなるのが嫌だから。

けれど、このお店なら……せっかくだから、お洒落で可愛いお酒飲みたかったかもな。
ビールじゃもったいない。



 マスターさんが去って二人きりになったところで、「奢るから二杯目ゆっくり選びなよ」と相馬が背もたれに身を預けた。



「そんな……悪いよ」

「ここまで来させたの俺だし」

「でも、私は定期あるし、どうせ通り道だったし……」



 なおも私が言い募ろうとすると、相馬が笑った。

「俺が告んのに自分で出向かずに呼びつけてんだぜ。せめて、これぐらい格好つけさせてよ」



 ……私が来たくて来ただけなのに、とは、言えなかった。


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